親の遺言書の強制力

親の遺言書は拒否できるか、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いと遺言書の強制力

親の遺言書の強制力

親が残した遺言書は絶対にそのとおりしないといけないのか?気になりませんか

遺言書の内容は拒否できるのでしょうか?
遺言書の強制力に自筆証書遺言と公正証書遺言で違いはあるのでしょうか。
結論としてはどちらの遺言書であっても参加者や遺言書の内容などの条件を見てしていれば適切な参加者全員で遺産分割協議で遺産の分割方法を話合い、まとまれば遺言書とは異なる遺産分割を行う事も可能です。
強制力があるかないかという話になると法定されている事項には強制力があるという事になります。

ポイント確認、自筆証書遺言と公正証書遺言、強制力はあるのか

遺言書の作成を行う方も、近年増加傾向にありますが、その中でも多く作成されている遺言書の形式が自筆証書遺言と公正証書遺言ではないでしょうか?
どちらも民法に規定されている制度です。

自筆証書遺言

第968条
1自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

公正証書遺言

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

普通方式による遺言の種類

遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

この様に民法によって規定されている遺言書の種類ですが、自筆証書遺言は自分で全文自筆し作成しますが、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成する公正証書で公文書です。
公正証書には高い執行力と証明力、安全性がありそれらの点で自筆証書遺言よりも優れていると言えます。

遺言書でできる事

自筆証書遺言であっても公正証書遺言であっても、遺言書によって出来る事(法的な効力がある事)は同じです。
例えば民法には以下の事が定められています。

  • 共同相続人の相続分の指定、または第三者への指定の委託(民法902条)
  • 遺産の分割方法の指定、または第三者への指定の委託、および遺産の分割の禁止(民法908条)
  • 推定相続人の廃除、または廃除の取り消し(民法893条,894条2項)
  • 遺贈(民法964条)
  • 認知(民法781条2項)
  • 未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条1項,848条)
  • 遺言執行者の指定、または第三者への指定の委託(民法1006条1項)
  • 特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
  • 祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項)

このほかにも信託法など別の法律で遺言で可能とされている事項もあります。

条件付きの遺言、条件を拒否するとどうなるのか

遺言書には条件を付けることができます。
たとえば「不動産を相続する代わりに○○してほしい」などという場合です。
この○○して欲しいの部分を守らないとどうなるのでしょうか。
条件付きで相続した相続人が条件を守らない場合には、他の相続人が条件を実行することを求めることができますが、それでも守らない場合は家庭裁判所において遺言の取消しを行う事を請求する事も可能です。
ですが、他の相続人が何も行わない場合は条件を反故にしたまま相続出来る事にもなりかねません。
詳しくは後述しますが、遺言書の実行力を高めるためには遺言執行者の選任が重要になってきます。

結局そもそも遺言に強制力はあるのか

遺言に強制力があるか否かに関しては、法的効力という意味で言えばある事項もあるし、ない事項もあります。
また遺言は単独行為なので相手の了解を得ていません。
その点を強制力と考えれば、相手にいくら○○してほしいとか○○をあげるといっても相手は拒否することもできます。
例えば長男○○を遺言の執行者に指定すると公正証書で遺言されていたとしても被相続人が死亡した時にいきなり遺言執行者に指定されていた事実を知った長男は拒否することもできます。
冒頭でも述べたとおり遺言があってもそれとは別の分割で相続することも可能な場合もあります。
そもそも遺言が発見されない場合(自筆証書遺言には多い)や遺言をなかった事にされた場合は実行されるはずもありません。

公正証書なら強制執行ができるんじゃないの?

公正証書なら強制執行が可能というお話を聞いた事がある方もおられると思います。
公正証書遺言も公正証書の種類の一つなので、その内容は強制的に実現する事ができるかといいますとそうではありません。
公正証書により強制執行が可能なのは強制執行認諾文言という文章の入った公正証書の金銭的な債務のみとなり、公正証書遺言の内容を強制執行することはできません。

じゃあ遺言があってもみんなで便利にきめればいいの?

それでは遺言を残しても意味が無いのでしょうか?
遺言を無視して遺産分割の方法を決めるという事は故人の遺志を無視することになってしまいます。
考え方は人それぞれですが相続財産はあくまで故人の財産です。
遺言がある場合、どうしてもという場合以外は最後まで故人の好きに使わせてあげるという意味ではもしかしたら遺言を尊重するのがいいのかもしれません。

遺言執行者について

もし遺言を残す方の立場で少しでも遺言の実行力を高めておきたいと考えた場合遺言の執行者をしっかり選任して指定しておくことが非常に有効です。

遺言執行者ってどんな人?

遺言により指定し法的効力を持たすことができる事項の一つとして遺言執行者の指定および指定の委託等(1006条・第1016条~1018条)という規定がありました。
いかに確実な公正証書による遺言があったとしても相続人がその内容を実行してくれるかわかりません。遺言とは別の内容を遺産分割協議により決定してしまう可能性もあります。
そこで民法では遺言の内容を実現してくれる人についての規定を定めています。遺言執行者の役割と業務は次の通りです。
1.遺言執行者とは
(1)遺言執行者の指定(民法1006条)
①遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
②遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
③遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なく その旨を相続人に通知しなければならない。
(2)遺言執行者の欠格事由(民法1009条)
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
※自然人のみならず法人もなれる。相続人、受遺者、信託銀行等も可。
(3)遺言執行者の選任(民法1010条)
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害
関係人の請求に よって、これを選任することができる。
※利害関係人:相続人、受遺者、被相続人の債権者等
(4)遺言執行者の権利義務(民法1012条)
①遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務 を有する。
※相続人の印鑑をもらわなくても、相続登記や預金の引き出し・名義変更 が出来る。
②第644条から第647条まで(受任者の義務と責任)及び第650条(受任者による費用等 の償還請求等)の規定は、遺言執行者にこれを準用する。
(5)遺言執行の妨害行為の禁止(民法1013条)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の 執行を妨げるべき行為をすることができない。
※相続人の相続財産に対する処分権が喪失する。
2.遺言執行者の主な業務
①相続財産目録の作成および相続人全員への交付(民法1011条)
②遺産の収集・管理・処分等
③相続財産の交付(相続人、受遺者)
以上のように、遺言執行者は遺言の実現に関して大きな力になりますので可能でしたら作成した遺言書には遺言執行者に関する規定を入れておきましょう。

それでも遺言の通りでは困る

どうしても遺言の通りに遺産分割されてしまうと困るようなとんでもない遺言が残されていた場合、遺産分割協議を行なうなら以下の点は要注意です。

まとめ

親が遺言書を残していた場合、それにどうしても従いたくない場合は遺産分割協議が優先される。
遺言書がある場合に遺産分割協議を行うためには関係者全員の同意が必要である。
遺言執行者などが指定されている場合は遺言執行者の同意も必要。
しかし遺言書によって被相続人が遺言書と違う分割を禁じている場合もあります。
また相続人以外の受遺者がいる場合にも注意が必要です。

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