遺言書の効力と口約束

遺言書に書かれている財産の受取人が既に死亡、口約束は有効か

遺言書の効力と口約束

遺言書に書いてあることが実行できなくなった場合はどうなるのか

公正証書であっても自筆証書であっても遺言書を作成した時の状況と遺言書を使用する時の状況が大きく違う場合があります。
状況の変化によって遺言書に書かれている事が実行できなくなった場合はどうするのかをまとめていきます。

例えば不動産を長男に相続させる旨の遺言書を作成していたがいざその遺言書を使用するときに長男の方が先に亡くなっているケースや○○銀行の口座を長男に相続させる旨の遺言書がるがその遺言書を使うときにはその口座は解約してしまっていたようなケースがあります。

まずは遺言書により指定されている受取人が死亡してしまっていたケースを見ていきましょう。

遺言書により指定されていた受取人が死亡していたら?

例として親が子供に相続させるケースで考えてみましょう。
親より先に子供が死んでしまうのはとても悲しい事ですがその様なことが起こった場合、子供に子供つまり親からみて孫がいる場合は子供がもっていた相続権は孫に移ります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。
代襲相続は民法に規定されています。

1被相続人の子は、相続人となる。
2被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

この様に親より先に子供が死亡していた場合その相続権は孫に引き継がれるのですが、遺言書についてはどうでしょうか?
親が遺言書で長男をある財産の相続人として指定していた場合に長男が先に亡くなってしまっていたら、その遺言書の項目はそのまま孫に引き継がれるのでしょうか?

この場合の考え方としては、引き継がれるという考え方と引き継がれないという考え方がありますが学説としては引き継がれないが優勢です。
つまり親の遺言の長男を受取人としていた条項は効力を生じないことになります。

この様な事態に備える補法として予備的遺言という方法があります。

予備的遺言とは

予備的遺言とは、相続発生時にもし受取人が死亡していた場合の次の受取人を指定しておく遺言書の条項です。
文例
遺言者は上記長男〇〇〇が遺言者の死亡以前に死亡したときは、〇〇〇に相続させるとした財産は〇〇〇の子△△△に相続させる。

遺言書に書いてある財産が使われていたら

次に遺言書に書かれている財産が相続発生時までにすでに使われるなどしてなくなっていた場合をまとめてみましょう。
親世代の方々はたまに勘違いされているのですが、「遺言書なんか書いたら財産がつかわれへん」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
遺言書に書いたからといってその遺言書が効果を生じるのは遺言者が死亡した時ですので当然その財産は自由に使うことができますし相続発生時にはなくなっているという可能性もあります。
遺言書に書かれている財産がなくなっているような場合その部分は取り消されたとみなされます。
あくまでその部分だけですので残りの個所は有効に機能します。

遺言書に書かれていない残りの財産はどうなるのか

遺言書に全財産が記載されていない場合もあるかと思います。
その場合その記載がない財産については、法定相続人全員による遺産分割協議を行って分割することになりますが、記載の財産や後から出てきた財産は○○に相続させるという記載の仕方もあります。

相続において口約束は有効か

生前に財産の分割こうしてこうしてと親世代からお話しされていた場合、その口約束は有効となるのか、また相続人の側が相続放棄を約束した口約束は有効か、通常の契約であれば口約束であっても契約が成立しますが相続においてはどのような扱いとなるのでしょうか、少しまとめておきましょう。

相続放棄と口約束

相続放棄とは自身が相続人である相続に関してその相続を放棄する事です。
口約束で相続の放棄を相手に守らせることが可能なのかみてみましょう。

第二百一条 相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の八十九の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 前項の規定にかかわらず、限定承認の場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の九十三の項の事項についての審判事件をいう。)は、限定承認の申述を受理した家庭裁判所(抗告裁判所が受理した場合にあっては、その第一審裁判所である家庭裁判所)の管轄に属する。
3 家庭裁判所(抗告裁判所が限定承認の申述を受理した場合にあっては、その裁判所)は、相続人が数人ある場合において、限定承認の申述を受理したときは、職権で、民法第九百三十六条第一項の規定により相続財産の管理人を選任しなければならない。
4 第百十八条の規定は、限定承認又は相続の放棄の取消しの申述の受理の審判事件(別表第一の九十一の項の事項についての審判事件をいう。)における限定承認又は相続の放棄の取消しをすることができる者について準用する。
5 限定承認及びその取消し並びに相続の放棄及びその取消しの申述は、次に掲げる事項を記載した申述書を家庭裁判所に提出してしなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 限定承認若しくはその取消し又は相続の放棄若しくはその取消しをする旨
6 第四十九条第三項から第六項まで及び第五十条の規定は、前項の申述について準用する。この場合において、第四十九条第四項中「第二項」とあるのは、「第二百一条第五項」と読み替えるものとする。
7 家庭裁判所は、第五項の申述の受理の審判をするときは、申述書にその旨を記載しなければならない。この場合において、当該審判は、申述書にその旨を記載した時に、その効力を生ずる。
8 前項の審判については、第七十六条の規定は、適用しない。
9 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一 相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長の申立てを却下する審判 申立人
二 限定承認又は相続の放棄の取消しの申述を却下する審判 限定承認又は相続の放棄の取消しをすることができる者
三 限定承認又は相続の放棄の申述を却下する審判 申述人
10 第百二十五条の規定は、相続財産の保存又は管理に関する処分の審判事件(別表第一の九十の項の事項についての審判事件をいう。)について準用する。この場合において、同条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「相続財産」と読み替えるものとする。

この様に相続放棄の「やり方」は法律の定めに従い家庭裁判所に対して行う必要があります。
結論としては口約束では相続放棄の効力はありませんし、相続発生前に相続放棄を行うこともできません。

あの財産は私にくれるといっていた

例えばお父さんが娘に自分がなくなったらマンションは娘にあげると言っていたような場合でも民法に従った様式の遺言書がない場合は無条件にその通りになりません。
遺産分割協議を行い、他の相続人も全員が娘のマンション相続に同意した場合にはそのようにすることができます。
ただたとえ生前にお父さんが娘にマンションをあげると言っていたことを他の相続人も聞いていて知っていたとしても遺産分割協議においてそれに従う義務はありません。

まとめ

財産の分け方をしっかり指定しておくにはやはり遺言書が大切です、口約束だけでは不十分です。
その遺言書の作成も、できるだけ相続発生時の様々な可能性を考えて文面を作成する必要があります。

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